【over night】 − 2 −

 衛の部屋から見える夜景もなかなかのものであったが、ホテルの最上階から望む東京の夜景は素晴らしかった。

 食事を先に済ませてから部屋に入ったので、改めて感動させられる。
 一部の壁面全てがガラス張りの窓になっており、地面を走る道路まで見下ろす事が出来た。
 部屋の調度品も豪華で、室内は広々としている。

「わー!衛くん!大きな部屋だねー!」

 フィオレは部屋に入った途端に、子供のようにはしゃいであちこちを物色している。
 衛も夜景の美しさや、滅多に味わえない贅沢気分に心浮かれるものがあった。

「凄いな。高い場所での夜景なんて見慣れてるのに、こうしてホテルの一室から見る景色ってまるで違って見える」
「衛くん」
「…フィオレ」

 衛の肩越しに夜景を覗き込んだフィオレが、頬を寄せてキスを強請る。
 衛は抵抗せずに唇を重ねた。

「衛くん、衛くん…」
「ん…」

 フィオレは衛を抱き締めて、強く唇を押し当てた。
 抉じ開けられた隙間に舌が入り込み、衛の舌を絡め取る。フィオレは呼吸すら奪う程に激しく衛に口付けた。

「…フィ、フィオレ!」
「駄目、逃げないで」
「…んんっ!は、離せよ!」

 フィオレのキスを拒む気は無かったのだが、性急な彼の態度に驚いたのと、視線の先にあったガラスに抱き合う二人の姿を見つけて、ここが窓際であることに気付いた衛は、咄嗟にフィオレの身体を引き離した。

「何で逃げるの?」
「だって、カーテン閉めて無いし。見られたら…」
「こんな高いとこ、誰も覗きゃしないのに」
「…そうだけど」
「まぁ、いいや。夜はこれからだし」

 フィオレは意外にも衛を手放して、再び室内に興味を移してしまった。
 衛はフィオレの言葉に少々不安を感じたが、彼の方も引き続き夜景に目を奪われ、美しさを満喫した。

「同じホテルでも、やっぱラブホとは違うねー」
「一緒にすんなよ」
「向こうの部屋にもベッドがあったけど、こっちの方が大きいね。これだったら君が暴れても大丈夫そうだよ」
「何でオレが暴れるんだよ」
「そりゃあ…」
「変なことすんなよ?こんな良いホテルで…って、お前、今日は変なもん持って来なかったよな?」
「何?変なものって?」

 ベッドに腰掛けたフィオレが、上目遣いで覗き込む。

「解ってるだろ?聞くな!」
「持って来ちゃいないよ。君が出掛けに取り上げたくせに」
「当たり前だ。たった一泊の着替えであんな荷物になるか!」

 衛の顔が紅くなる。
 わざわざ中身を確認しなかったが、フィオレが何を積めていたのか容易く想像出来た。

「本当に色々用意しやがって!一体どこから手に入れるんだか…!」
「この間、新しいバイブ、買ったんだよ♪機能充実なやつ。ローターにスウィングに回転と全部付いてるし、ちゃんと真珠も…」
「フィオレ!!」
「怒らないでよ。今度、君の部屋で試してあ・げ・る・からさ♪」
「いい加減にしろ!オレ、もう帰るぞ!?」

 フィオレに揶揄われていると知りながらも、羞恥から腹が立って来る。
 衛はドアに向かって踵を返した。
 
「あ、待ってよ、衛くん。ここ、お風呂も大きいよ?二人で充分入れるよ?ね、せっかく来たんだからさ、一緒に入ろうよ!」
「嫌だ。お前、変なことするから」
「君だって、ただ食事して一泊するだけでのつもりで来たんじゃないんだろう?」
「……」

 フィオレは衛の心を見透かしたかのような、意地悪な笑みを浮かべて衛を見つめた。
 衛はその誘いに乗るまいと視線を外す。

「オレ、ラウンジに飲みに行く」
「えー?酔ったらお風呂は入れないじゃないかー。ね、先に入ってからにしなよ」
「酔い潰れる程、飲む訳ないだろう。…ってそうさせたいのか?」
「そういうシチュエーションも美味しいけどね。君、お酒が入ると結構悶えてくれるから」

 以前、酔って抵抗が薄れた際に、普段より恥ずかしいセックスをした記憶が甦る。衛は紅い顔のまま、大きく咳払いをした。

「…一緒に行こう」
「え?」
「お前だって、せっかく良い格好してるのに、もう脱いじまったら勿体ないぜ?」
「似合う?」
「…ああ」
「見せびらかせてくれる訳?」
「…行かなきゃ、いい。一人で飲んで来る」
「待って。ねぇ、僕を独占して」
「フィオレ……」
「衛くん、僕は君だけのものだよ?」
「……」

■ ■ ■


「大丈夫?衛くん、酔っちゃった?」
「まさか。あのくらいで」

 ラウンジでは2,3杯のカクテルを飲んだだけだった。
 衛は酒には弱くはない。
 それなのに、自分から出掛けておいて、衛の方から早々に部屋に切り上げた。

「でも、頬が紅いよ?」
「そうかな」
「期待してくれてるから?…照れてるみたいで、可愛い」
「…こら!」

 フィオレが抱き付いて来て、衛の身体はソファーに押し倒された。
 覆い被さった途端にフィオレの指が衛の襟元を緩め、唇が首筋に食らい付いた。
 舌が耳たぶの辺りを舐め上げる。衛は小さく喘いだ。

「ん…、フィオレ」
「衛くん、素直だね。もうその気になってくれた?」
「…さっき」
「ん?」
「ラウンジで皆、お前のこと見てたぞ」
「そう?」
「食事の時もそうだった。…お前、綺麗だからな」

 フィオレは戸惑いもせずに、衛を見つめた。衛は穏やかに笑みを浮かべている。

「馬鹿だな。皆、君を見てたんだよ」
「…フィオレ」
「ね、一緒にお風呂に入ろうよ。衛くん、僕に服、脱がさせて?」
「…うん」
「僕のは君が脱がせてくれる?」
「……うん」

 フィオレが身体のあちこちにキスをする。頬に瞼に、首筋に手首に指に。
 衛は心地好さに、吐息を漏らした。

■ ■ ■


 バスルームは広く、湯船は大きかった。
 背丈のある二人が一緒に入っても、充分に足が伸ばせる。
 温めの湯に浸かりながら、衛は背後からフィオレに抱き締められていた。

「あ…、ん」

 フィオレの手が衛の身体を湯で撫で洗う。

「フィオレ…、あっ!」
「じっとしててよ、衛くん。ちゃんと洗えない」
「よせよ、そんなとこ…、くすぐったいだろ?」
「駄目だよ、ちゃんと洗わないと。僕が触れるところは全部綺麗にしてあげる」
「ん…っ」

 フィオレの指が、乳首を摘む。
 先程から掌で胸を撫でられていたので、既に小さく突起している。
 フィオレは硬くなった部分を、指の腹で転がしたり突付いたりしながら衛の反応を窺っていた。

「キスするところは、特にちゃんと洗わなきゃ。ここも、この辺も、いっぱいキスしてあげるとこだよね」

 乳首を弄りながら、もう片方の手で首筋から背中、胸元から臍を何度も撫で擦る。
 衛の身体中をフィオレは愛撫していく。

「一番キスするのは、唇と、ここ…?」
「あっ!」

 中心に滑り込んだ手が、衛のペニスを握った。指が先端から根元まで絡み付く。
 触れられた途端に、衛は背筋を震わせた。

「フィオレ…、あ…」
「触っただけで随分脹らんじゃったね」
「……っ!」

 恥じる衛の、反応したペニスをゆっくりと擦る。

「あっ、あっ!」

 湯の中では鈍くなる筈が、衛は普段より敏感だった。
 扱かれることで快感を得ている。

「…ここも、だよね?」

 フィオレの指が、唐突に衛の双丘の隙間に滑り込んで、閉じた蕾を抉じ開けた。

「あぅっ!」

 アナルに差し込まれた指が、遠慮なく蠢いた。

「フィオレ、指…っ!」
「気持ち良い?もっと奥の方かな?」
「あ…っ、あっ!」

 衛がどうすれば悦ぶのかを、フィオレは熟知していた。

「いつも君が僕を咥えてくれる大事な場処だよ。ちゃんと洗って解しとかなきゃ」
「や…だ、やめ…」
「お湯の中だし、指1本だけだから、ちっとも痛くなんかないだろ?」
「指…、やだ…、あっ」

 ペニスを扱かれ、アナルを弄られ、体内の性感帯をも刺激される。
 湯に浸かっているのと体制が楽なせいで、実際に痛みは殆ど感じない。
 だが、そのおかげで衛は普段よりずっと敏感になっていた。
 
「衛くん、足が邪魔だよ」
「あ……」

 反応する度に身体を揺らすので、湯が零れていく。
 フィオレは衛の片足を掴むと、浴槽の淵に膝を掛けさせた。
 脚を開かされる姿勢で、更に愛撫を続けられる。
 衛は堪えることなく、喘ぎ声をフィオレに聞かせた。

「お風呂だと、衛くん、素直だね。裸でいても恥ずかしく場処だから?」
「……んっ」
「お湯の中だと、すぐに柔らかくなるね。このまま、もう挿りそうだよ?」

 指で内壁を撫でるように、ぐるぐると指先を回す。
 いつもは硬く閉じて拒む蕾が、侵入を待ち望んでいるかのように充分弛緩している。

「このまま挿れちゃおうか?」
「……駄目」
「こんなに誘ってるのに?」
「…ここじゃ、のぼせる…」

 衛は紅潮した頬で大きく胸を上下させて呼吸した。

「ここで君が気を失ってくれるのも、なんだか可愛いんだけどさ」
「…嫌だ。もっと…」
「もっと、何?」
「……もう、出よう。本当にのぼせる」
「うん、ここじゃ長く楽しめないからね。僕も今夜はゆっくり楽しみたい」
「……」

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